チェンバロあれこれ

 チェンバロは14世紀の終わり頃、生まれた楽器です(日本で言えば金閣寺が建てられた頃です。下の写真は1440年頃にアンリ・アルノーという人が書いた現存する最古のチェンバロ設計図をもとに復元された楽器です)。
 16世紀になると、チェンバロの即興演奏が栄えました。パッサメッツォ、ラ・スパーニャなどのバス主題をもとにディミニューションと呼ばれる細かい音符をしきつめた変奏が繰り広げられました。モダンジャズがスタンダードナンバーのコード進行をもとにアドリブするようなものです。ちなみに50 Standards: Renaissance et Baroque(Boquet,Rebours共編、Fuzeau刊)というルネサンス、バロック版リアルブック(有名曲のメロディーとコードネームを収録したポピュラーミュージシャンのための楽譜集)のようなものも最近出版されました。
 楽譜に書かれた曲集も残っていて、カベソン、バード、ブル、ギボンズ、スヴェーリンクらがすばらしい作品を残しています。
 また、16世紀は日本の戦国時代にあたり、キリスト教とともにチェンバロもはるばる日本にやってきました。

 17世紀から18世紀の半ばにかけての時代を音楽史ではバロックと呼んでいます(日本では徳川家康〜吉宗の時代)。この時代はチェンバロの最盛期です。即興演奏は相変わらずさかんでしたが、楽譜に記され、推敲された芸術作品としてのチェンバロ曲集がたくさん作られました。代表的な作曲家に17世紀のフレスコバルディ、フローベルガー、シャンボニエール、ダングルベール、ルイ・クプラン、18世紀のフランソワ・クプラン、ラモー、バッハ、ヘンデル、スカルラッティらがいます。(下は左からフレスコバルディ、ダングルベール、フランソワ・クプラン)

  

 楽器の面でも、地域と年代によってさまざまな個性をもったものが作られました。一般的にはイタリアン、フレミッシュ、18世紀フレンチが3大メジャースタイルと言われ、現在制作されている楽器もこれらを模範としたものが多いと思いますが、その他にも17世紀フランス、ジャーマンなど魅力的なスタイルがいろいろあります。(写真は左からイタリアン、フレミッシュ、18世紀フレンチ)

   

 バロック音楽の時代から「前古典派」と呼ばれる18世紀後半になってもチェンバロは使い続けられました。しかし、フランス革命(1789〜92年)を境に、「貴族の楽器」であったチェンバロは歴史の表舞台から去っていきました。

 19世紀に入って一度忘れ去られたチェンバロは、やがて「古楽」(18世紀以前の音楽)の復興運動とともに復活します。20世紀の中頃過ぎまでは現代ピアノの技術を折衷したモダンチェンバロが使われましたが、今では最盛期の16〜18世紀の製作法を尊重したヒストリカルチェンバロが主流になっています。(下の写真はモダンチェンバロ、古い映画音楽などで使われているチェンバロの音はこれです)
 「古楽復興」の運動は、単に古い時代の音楽を再生させようとするだけの運動ではありません。ルネサンスの時代、音楽は他の藝術や学問・宗教と一体になった総合的なものでした。バロック時代にもその名残がありますが、バロックにつづくクラシック音楽の時代になると音楽が専門化してきます。音楽大学ができて、どのような音楽でも楽譜があれば演奏できるという意味での演奏技術は向上したかもしれませんが、その反面、他の藝術、学問、宗教との一体感が失われ「人間らしく生きるための遊び」という音楽本来の姿を見失いがちになったのではないでしょうか。古楽運動にはもともと音楽本来の総合性をとりもどそうという熱意があったと思います。それが、20世紀の古楽復興運動がこれほど大きなものになった理由の一つではないでしょうか。

チェンバロ教室に戻る

トップページに戻る